雪夜庵閑話

俗世を離れ、隠遁生活を始めた団塊世代です

宿泊料前払いによる旅館支援

  もう一カ月も前になるが、以前、数回泊まったことのある老舗の温泉旅館から、「新型コロナウィルスによる苦境にあり、宿泊料金の前払いによる支援にご協力を」というメールが来た。   昨日の朝日新聞電子版にも「3年後の宿泊費、いま払おう コロナ禍の宿泊施設支援」という見出しで、このような動きが広がっていることが好意的に書かれていた。
 仕組みとしては、「種プロジェクト」という支援のサイトに支援を受けたい旅館が登録し、応援したい人は、このサイトを通じて支援したい旅館に宿泊料の前払い金を払い込むというもので、3年以内に宿泊する時に宿泊料の一部に充当する。 旅館としては、売上が途絶えている中で一助となり、またお客との絆を強める意味があると考えられる。
 
 最近はクラウドファンディングにより不特定多数から寄付金等を集めるやり方が一般化し、資金を集める側も出す側もこのような手法に抵抗感がなくなり、中には呼びかけた方がびっくりするくらいの金額が集まったりすることもあるようで、この旅館の支援もこんな時流に乗ったものかもしれない。

 しかしながら、私のような古い人間にはどうも違和感があるやり方である。
 由緒ある旅館の窮状に対する馴染み客による支援に水を差すつもりは毛頭ないが、商売をする者と消費者との関係で考えた場合、冷静に次のようなことも考慮すべきであろう。
■そもそもこれって、旅館がお客から寸借りして回ることと同じではないか? お客から金を借りるなんてことは、銀行からも断られて最後の足掻きにするもので、まともな商売人だったら、恥ずかしくて出来ることではないと思うが。 
 今だったら、銀行から無利息、無担保で借りられる制度があるのに、それで間に合わないのだろうか?
■お客側から見た場合、これは宿泊料金の前払いで決して旅館への寄付ではない。 としたら、結構リスクのある債権(前払い金)である。 ちなみに、私のところにメールで依頼のあった旅館は「種プロジェクト」のサイトで見ると、既に200人近くから支援を集め、ひとり当たりの前払金額は約4万円であった。 嫌な言い方になるが、今の状況下で一番倒産リスクの高い業種は宿泊業と飲食業であり、既に新聞にも倒産が頻発していることが報じられている。 さて泊りに行こうとして電話したら倒産していたということになれば、前払い金はパーである。 前払いする側としては、保証の付かない債権だと言うことも頭に置いたうえで支援を判断することが必要である。 

 フィンティックやクラウドファンディングといった手法の発達により、以前に比べお金の「重さ」というものがなくなってきているように思われる。 お金を集める方も出す方も面倒なことを考えずに、相手の顔もわからないままに軽い気持ちでお金をやり取りしている。 少ない金額だからどうでもいいと言うことではないし、お金の怖さは今も昔も変わらないはずなのである。