雪夜庵閑話

俗世を離れ、隠遁生活を始めた団塊世代です

シャルラン閉店

    いつかこの日が来るだろうとは思っていたが、それは突然にやって来た。

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 いつも行く喫茶店「シャルラン」でその日もモーニングセットのコーヒーを飲みながら司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズを読んでいると、店主の佐藤氏が席にやって来て、「永い間ご利用いただきましたが、今月末でここも閉店することになりました」と言うではないか。 渡された挨拶状を見ると、そこには、昭和32年以来長きにわたり営業を続けられたのも皆様のお引き立ての賜物であるとの感謝の言葉が綴られていた。 

 記憶をたどれば、シャルランに行くようになったなったのは、もう40年以上も昔からのことで、休日の午前中にこの何一つ変わらない店でコーヒーを飲みながら本を読むというのが私の大きな楽しみであり、生活習慣となっていた。

 朝の7時半から夜まで、元日以外ほとんど休みなしに主人夫婦と2,3人の従業員でやっていて、コロナ禍でようやく世間並みに時々休みも取るようになった。

 

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 お客は中高年女性が8割といったところで、昭和の喫茶店そのままの店内で、あちらこちらから聞こえる長岡弁を聞いていると、昔に戻り、時が止まった世界にいるような、眠くなるような気持に陥るのであった。

 高齢の主人夫婦に対し、コロナ禍が背中を押して閉店の決断をさせたのであろう。

 日本中でこんな形でやめていく個人経営の昔ながらの店がどれだけあることか。

 

 あと僅かな残りの日々を惜しんで今日も行くと、女性の客が帰り際に感極まったように泣きながら主人に思い出話をしている姿があった。

 私にとっても、老後の楽しみの場を奪われたような寂しさでいっぱいであるが、長年にわたり読書と憩いの場を提供してくれたこの店と主人夫婦に厚く感謝してお別れとしたい。