雪夜庵閑話

俗世を離れ、隠遁生活を始めた団塊世代です

懐古園にて

 小諸なる古城のほとり 雲白く遊子悲しむ・・・(藤村)

 と言えば、懐古園。 先週、何十年ぶりに訪れた。

 夏休み期間中の土曜日ながら人影は少なく、強い夏の日差しと暗い木陰、セミの鳴き声が印象的であった。 信州の夏である。

 目的は、園内の小山敬三美術館と移築されたアトリエ。 小山敬三は小諸の人で、島崎藤村に勧められて渡仏し、フランス人の夫人を得て帰国後、風景画を主体に大成した。

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小山敬三「アルカンタラの橋」(小山敬三美術館のパンフレットから)

 この美術館は小山が村野藤吾に設計を依頼し、自費でこの地に建てたという。 その絵は内に籠ったところのない、円満な家庭生活を反映したもので、風景が明るい光の中で描かれている。

  ちょうどお昼時になったので、園内の「古城軒」といういかにも昔風の、風景に溶け込んだ蕎麦屋でお昼とする。 ここは昔、寅さんの渥美清が骨休みによく小諸に来て、そのたびに好んで寄って行ったところだとお店の人が教えてくれた。 蕎麦も天ぷらも田舎らしく量が多くていささか難渋したが、この時代を超えたような店、外は昔と変わらぬであろう夏の日差しとセミの大合唱、忘れ得ぬひと時となった。

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蕎麦屋 古城軒